PINK

Tuesday, October 17

灰色の海もいい...

お昼近くになって、雨がぽつぽつと降り出した。

車は半月湾に向かう途中の、曲がりくねった森の中である。

この日、ハーフムーンベイの町の中心はパンプキンフェスティバルで賑わっており、我々はそれをさけるために、国道35号に迂回路をとった。

雨期にはちょっと早いのだが、深い森を抜ける頃にはかなりの雨が降り出し、あたりは深い霧で覆われた。
フォッグライトで注意深く運転していく我々の目の前に、突然、野生の鹿の黒い影が、奇麗な弧を描いて横切って行く。
道のあちら側のやや小高くなった所で、天に向かってねじり上げるようなつのをもったその立ち姿は、まるで聖なる幻の鹿のようだ。

苔の匂いの中に、潮の匂いが強くなり、車は海辺に近づいた。
そして、海辺に近づくにつれて、雨も次第におさまってきた。

”青”のない海というのはまったく違う表情をたたえている。
厳しい海の顔。

崖沿いに歩いていくと、まるでそこは「嵐が丘」の舞台のようである。
草花は冷たい潮風で乾涸び、それでも意固地に風に向かって首をもたげている。
色も無く、灰色の空の下、再び緑の季節がやってくるのを、体を固くして待っている人々のように見える。
でもこんな風景もきらいではない。

青く穏やかな海と、この厳しい海の顔、両方あって、海の魅力がさらに浮き上がる。
冷たい空気の中で、深呼吸。
海を体一杯に感じた午後。

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